教科書プロジェクト

教科書の執筆・編集方針

1.本書の特徴

 本書は日本で最初の “Calculus” 教科書であり,世界の標準を示すという意味で取り敢えず “Standard Calculus” というタイトルをつけてみた.しかし,一見通常の “Calculus” の構成のように見えながら,以下で説明するように多くの応用の中でもとりわけ物理への応用を少し掘り下げた形で取り扱うため,実質は生きた応用マインドを育成する応用数学(特に数理物理)への入門書としての狙いが含まれている.そういう意味で世界一の本格的な応用系の学生向きのテキストを目指したい.

2.本文の記述の流れ

 微分積分学はNewtonによって創始された当初から物理との関連が深い.従って,全体として各Chapterを独立に扱うのでなく,微分(速度)→積分(道のり)→級数・微分方程式(運動方程式,振動)→ベクトルの媒介変数表示(運動方程式を解いてトラジェクトリを求める)→偏微分と重積分(ポテンシャルと運動)→ベクトル解析(力学・電磁気の保存則)という様に数学と物理の2つの理論の展開の流れが織なして一つの融合した自然概念の流れになるように留意したい.数学的な定理の証明は出来るだけ本文に取り入れ,繁雑になる場合は巻末のAppendixにまわす.例えば,極限定理では関数の和の極限は本文でε-δ論法によって証明するが,積・商は巻末にまわす.この様に,本質的な理解に必要な厳密さと読みやすさをこのコースの目的の観点から配慮する.この様な基本的な証明の「理解」は理系大学生の論理的思考力育成のためでもあり,結局微積分の原理を根本的に理解していなければ応用も利かないのである.

3.応用力の養成

 各Chapter(または§)において初めての概念の導入に当たっては具体例からの導入部分を設け,学生の学習意欲を喚起する.また,本文中の例題や演習問題にも必ず幅広い分野からの応用例を入れて具体的な現実の事象との関連を学習することによって応用問題に慣れさせる.(近年の高校までの教科書から応用に関する記述が著しく減少しているという報告がある.)この様に,数学を現象と共に学習することによって数学自体の理解も深めると共に,応用数学の学習を「楽しい」と思わせるようにしたい.(応用系の学生に対して時間不足を理由に応用の殆どない教科書を与えても学生は数学の学習に意欲を示せず,実際の運用能力が身に付かない.)

4.学生レベルに応じた汎用性

 Appendix ではクラスのレベルに応じて使える「基礎数学」からの復習や,本文中の定理の証明,Analysis (解析)における実数の位相に関する基本定理等を本文と同じように必要ならば実際の授業で挿入して使用できる形で用意する.これによって本書を殆ど全てのレベルの大学で使用することを可能にし,学生の方も微積分の教科書はこれ一冊で事足りるようにして,生涯の座右の書とすることが理想である.(地方公立大や私大ではこの追加の復習のみでは依然不十分なレベルの学生が下位の1/4~1/3程度含まれている.そのような学生層に向けて,このコースの前に履修すべき“Pre-calculus” の教科書を本書と同様の方針で作成中である.)

5.本文の記述・表現法

 本書の執筆に当たっては,学生にとって分かり易い内容・記述になるよう心がけ(数学者特有の記法は避ける),例題等はやや易からやや難へと配列してクラスのレベルに応じて教授者が取捨選択して使用できるように少し多めに準備する.各§の長さは1~2ページ程度の演習問題を含めて10~12ページ程度とし,全体として600~700ページ程度を想定している.(殆どのCalculus教科書は1000ページ超である.)テキストはカラー印刷を取り入れ,理解を助けるために本文中もしくは横の欄外に図やグラフ,写真等を随時挿入する.